「イルミナティカード」でちゃんと遊んでみたよ!(あるいは『予言』という陰謀論を解体する試み)

自由研究 | 06/14/2021
本記事の剽窃、動画等への転載を固く禁じます。最大限配慮しましたが、それでもなおこの記事の内容に間違いがあった場合、誤った情報がさらにインターネット上に拡散してしまうためです。すいませんが僕はそこまで責任とれないので、必ず一次ソースを参照してください。


こんにちは!今回はイルミナティカードについて調べてみたいと思います!

911テロや震災を予言していたと言われるイルミナティカードですが、なんだかとっても不気味ですよね!?

はたしてその予言は本当なのか、そして気になる遊び方をSAPPORO POSSEが調べてみました!






ILLUMINATI: THE GAME OF CONSPIRACY


今回プレイするのは「イルミナティ:陰謀のゲーム」です!コンポーネントはこんな感じでした!

イルミナティカード:8枚
グループカード:83枚
特殊カード:15枚
通貨トークン「メガバックス」:160枚
ダイス:2個

バージョンによってカード枚数や絵柄が異なるのですが*、僕の持ってるのはこれなので、これで話を進めます!

というわけで、ルールブックも含めて全部翻訳しました!これは世界で僕しか持っていない、日本語版の「イルミナティ」ゲームです!

プレイ人数は4人から6人が推奨されています!それでは早速遊んでいきます!

① ゲームのセッティング
各プレイヤーが、8枚のイルミナティカードから1枚を引き、自分の前に開示します。
各カードにはそれぞれの「特殊ゴール」が設定されています。
今回は「バヴァリアのイルミナティ」「暗殺教団」「ディスコルディア教会」「ネットワーク」の4枚からゲームがスタートします。

(反射するんで翻訳スリーブ外しました)
「グループカード」と「特殊カード」をシャッフルし、伏せた状態にして、山をテーブルの中央に置きます。
そしてそこから4枚のカードを引き、テーブルの中央に開示します。


おっと、PTA、FBI、KGB、パンクロッカーの4枚でしたね!これは波乱の展開かも!?

② ゲーム開始
任意の一人からプレイを始めます。まずはカードの上に「資金」を獲得し、そうしたら山札からカードを引き、それを中央のエリアに並べます。ややっ、「地球平面説論者」でした!

③ アクション
ここでプレイヤーは任意のアクションを行います。攻撃には3種類ありますが、序盤なのでまずは「支配」といきましょう。

「バヴァリアのイルミナティ」で「FBI」を「支配」!

ここで重要になるのが、攻撃カードの「攻撃力」と、攻撃を受けるカードの「抵抗力」。この数値を差し引きします。すると10-6で「4」という数字が導かれます。

この数字をダイスに託すのです。プレイヤーがダイスを振り、その出目が4以下だった場合に「支配」が成立します。確率は6/36、つまり1/6……成功です!

まあ、多少展開が強引ですが。さらに「資金」を支払うことで出目を有利にできたりもしますが、それは置いておきましょう。ここで取得したグループは「支配攻撃」を行ったカード、つまり母体となるカードの矢印に沿うよう配置されます。

そしてこれが進むと、いずれはこんな「権力構造」ができあがります!
そしてもちろん、ターゲットになりうるのは中央の「中立エリア」のカードだけではありません。他のプレイヤーが保有するカードに対してもあらゆる攻撃が行えます。もちろんその配下のカードもそっくりそのまま奪われます。さらには他のプレイヤーとの共謀も可能。こうして、世界を支配するゲームが始まるのです!

④ ゴールについて
4人プレイ時は「12枚のカードを支配下に収めた時点でゴール」となりますが、それ以外に実は、それぞれのイルミナティカードには固有の「特殊ゴール」が設定されています。ここで参加している4枚のカードのそれぞれの特殊ゴールは、
バヴァリアのイルミナティ:支配したグループの攻撃力の合計が35以上になった時点でクリア
暗殺教団:「暴力的」属性のグループを6つ支配した時点でクリア
ディスコルディア教会:「変人」属性のグループを5つ支配した時点でクリア
ネットワーク:「支援攻撃力」の合計が25に達した時点でクリア
となっています。「12のグループを支配する」以外に、それぞれのプレイヤーが違うゴールを目指してもいるんですね。これがこのゲームのキモです。各プレイヤーは、他のプレイヤーの特殊ゴールにも気を配りながら、彼らにとって有利なカードを先取したり、あるいは他のプレイヤーと共謀したりしながら、自分にとってゲームを有利に進めていくのです。

⑤ 属性
もう一つ気になる点がありますね。「属性」。各カードには、ひとつまたは複数の「思想属性」が設定されています。
合衆国政府「共産主義者」は互いに対立。
リベラル「保守的」は互いに対立。
平和的「暴力的」は互いに対立。
ストレート「変人」は互いに対立。
犯罪的はすべての属性に対して、対立しない。
狂信的はすべての属性に対して、対立する。
属性には「対立」があるんですね。これが二つ目のキモです。つまり、同じ属性同士のカードに対しては支配がしやすくなり、対立属性のカードに対しては支配がしにくくなるのです。具体的には、ダイスの目に「4」が増減されます。

だから例えば、「国際的な共産主義の陰謀」なんかは、「合衆国政府」属性の「テキサス」を支配しにくいわけです。ところが同じ「共産主義者」でも、「KGB」もそうかというと違います。KGBは「共産主義者」でありながら「暴力的」でもあるので、その点はテキサスと一緒。なのでこれは相殺です。KGBとテキサスは政治思想は異なりますが、暴力的な点で仲間なのです。

さらに「地方警察署」なんかは「保守的」で「暴力的」ですからテキサスとは相性バッチリ!「テキサス」で「地方警察署」を支配しようとする時には、+8が加点されます!じゃあテキサスの警察署はどうなるんだ!

とまあ、だいたいこんな感じでゲームが進んでいきます。ここでちょっと、僕の好きなカードを紹介しましょう。

メン・イン・ブラック。黒ずくめの男たちですね。50年代頃からアメリカに伝わる、宇宙人やUFOの目撃者の前に現れる謎の組織、という都市伝説が元ネタ。そのネタが映画化されたのが、ウィル・スミスとトミー・リー・ジョーンズのあの映画でした。

国際的なコカイン密輸団。やっぱり陰謀に犯罪シンジケートはつきものです。ハリウッド、パンクロッカー、バイカーギャングを支配しやすいというのがいいですね。

SMOF。シークレット・マスターズ・オブ・ファンダム。SFファンの間で言われるワードで、SFファンダムを司る「トップファンの秘密結社」的なものが存在し、自分たちはそれらに操られているという、SFファンの中で言われるメタ的なSFネタだそうです。

水道水にフッ素を添加する人。和訳がなんともアレですいません。ニューヨークなどの都市では虫歯防止のため、水道水にフッ素が添加されています。これもまた、古くから陰謀論に転化されてきたものでした。キューブリックの「博士の異常な愛情」にもこれを思わせる台詞があります。



というわけで、そもそもこのゲーム自体がすでに、様々な「陰謀論」をネタにしたパロディだったんですね。そして、果たして最後に世界を支配するのはいったい誰なのか!あの組織の背後には誰がいるのか!みたいな感じでワイワイ遊ぶゲームです。前に友達とやった時「ポルノ雑誌」が「ボーイスカウト」を支配してしまって「やべえだろ」ってなりました。コロナ収束したらまたやりましょう。(友達への連絡)

さて、冒頭でも触れましたがこの「イルミナティ」というゲーム、一部では「予言だ」などといった言説が流布しております。世界貿易センタービルへのテロ、ペンタゴンへのテロ、311の震災、ドナルド・トランプ大統領就任、などなどを、このカードが予言していたと。

911や311、ドナルド・トランプが描かれていた?
これは主に、2012年に放送されたテレビ番組「やりすぎ都市伝説」から広まりました。YouTubeで「イルミナティカード 予言」なんかで検索すると膨大な数の動画が出てきます。まあ、完全に一つのジャンルを築いていると言っていいでしょう。

というわけで、次はこのゲームを作った「スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社」の歩みに触れながら、これらの陰謀論、もとい「都市伝説」を紐解いてゆきます。






スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社


さて、上記で解説したのは、正確には「イルミナティ:陰謀のゲーム(ILLUMINATI: The Game of Conspiracy)」。1982年、アメリカはテキサス州オースティンに社を構える、スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社より発売されました。

名前の通り、ゲームデザイナーのスティーブ・ジャクソン氏が立ち上げた会社です。ややこしいことに、イギリスにも著名なゲームデザイナーの「スティーブ・ジャクソン」氏がいまして、彼と区別するために俗に「スティーブ・ジャクソン(米)」とか言われます。今回はアメリカのスティーブ・ジャクソン氏のお話です。

「GURPS ベーシック」(1993年[第5版])より
この「イルミナティ」ゲーム、その斬新さと設計がゲームファンに高く評価されまして、1982年のオリジンズ・アワードの「ベスト・SF・ボードゲーム賞」などを受賞しています。スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社はこの作品のヒットを受け、「ピラミッドに目」のロゴの商標を申請。1984年に商標登録されました*。それがこれです。



スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社は、これ以前には、映画「マッドマックス」風の荒廃した近未来的な世界観で、カスタムした車の性能を競う「カー・ウォーズ」というゲームなどを販売していました。マッドマックスは1979年なので、まあ、乗っかったんでしょう。ちなみに「イルミナティ:陰謀のゲーム」にも「米国オートデュエル協会」というカードが含まれていまして、これは同社の「カー・ウォーズ」のネタでした。

そしてスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社は1986年、RPGシステム「GURPS(ガープス)」を発売します。RPGといっても、ここでいうのは「テーブルトークRPG」。アナログゲームでした。TRPGというジャンルは、1974年にTSR社より発売された「ダンジョンズ&ドラゴンズ」によって確立されました。これはドラクエやFFのようなものではなく、複数のプレイヤーがそれぞれの役割(=role)を演じ(=playing)、そのキャラクターに沿ってゲームマスターに従い、データを紙に書きながらシナリオを進めていくというものでした。フォーマットとしては、基本的にはルールブック、ただの「本」で、モノによってはISBN番号とかもついています。それプラス鉛筆と紙、サイコロを使って遊ぶものなんですが、見たことがない人には想像しにくいかも知れません。まあ、「魔法使いや戦士になりきって遊ぶテーブルゲーム」という言い方でいいかと思います。

遊戯王の一コマ
スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社は、このTRPGというゲームのフォーマットをアップデートしてみせました。それが「GURPS」です。





GURPS


ガープス 1986年版
GURPS(1986)
Generic Universal Role-Playing System(包括的で汎用的な、役割を演じるシステム)、略してGURPS(ガープス)。これは、一つのゲームシステムを様々なジャンルに当てはめてプレイすることのできる革新的なものでした。これによって、決められた設定だけでなく、SF的世界やコミックの世界などをテーマにし、自由にプレイヤーがゲームを「作り、遊ぶ」ことができるようになりました。だからGURPSは、RPGではなく「RPG”システム”」なんですね。

今でも根強いファンが大勢いるんですが、例えば、最近では日本のプレイヤーがこんな作品を作ったりしていました。


梦現慧琉|Lavendina(@dreamin_limit)さんの作品「鬼滅のガープス

面白そう!要はこういうことができるシステムだったんですね。なんとなくイメージが湧くでしょうか。

ちなみに少し話は逸れますが、「日本におけるGURPS」という流れで、重要な事なので触れておきます。日本では、1980年代半ば頃から、安田均氏を中心とする会社「グループSNE」がTRPGの発展に大きく貢献しました。グループSNEは、門外漢にはわかりにくかったRPGのプレイ内容を誌面に書き起こす「リプレイ」という手法の記事を「コンプティーク」などの雑誌に掲載し、日本にTRPGを紹介しました。

この「リプレイ」を小説化したところ、それが大ヒットに。それが「ロードス島戦記」です。

ロードス島戦記
RPGリプレイ ロードス島戦記(角川スニーカー文庫)
TRPGから生まれたこの作品ですが、実は現代のアニメなんかにも大きな影響を与えております。というのも、TRPGから生まれたこのシリーズは、結果的に、のちの「ラノベ」の先駆けにもなったのでした*

水野良や担当編集の吉田隆さんは、『ロードス島戦記』は『ドラゴンランス』よりもっと日本的な、新たなジュブナイル小説の方向を志向していたはずです。それがやがてラノベという形に発展するのでしょうけど。

安田均「安田均のゲーム紀行 1950-2020」(2020)(Amazon)
また、ロードスや「ソード・ワールドRPG」シリーズなどのヒットは、「コンプRPG」「ドラゴンマガジン」などの雑誌の隆盛にもつながり*、90年代の角川書店のメディアミックス戦略そのものにも大きな影響を与えました*(例えば、『ドラゴンマガジン』から生まれた作品のひとつが『スレイヤーズ』でした)。そういう意味では、彼らがいなかったら、もといTRPGがなかったら、ひょっとするとその後のアレもコレもなかったのかもしれません。

時代を少しくだりますが、90年代に入ってからグループSNEは、スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社の「GURPS」シリーズを多数翻訳し、日本でヒットを量産しました。これにはスティーブ・ジャクソンも驚いたようで、安田均氏は自著の中で、「作者のスティーブ・ジャクソン自身が、なぜ日本ではこんなに『ガープス』が売れるんだと驚いてい」た(*1)と明かしています。とりわけ、友野詳氏、山本弘氏らが手がけた「GURPS ルナル」シリーズや「GURPS 妖魔夜行」シリーズは、日本でのGURPS展開を大きく牽引しました。従来とは違った「設定を作ること」自体の楽しさも手伝い、GURPSはTRPG”システム”として日本で定着しました。

ちなみに日本では、基本ルールの「GURPS ベーシック」はこんな表紙で売られていました。日本での初版は1992年ですが、この時点ですでに「ピラミッドに目」でした。

GURPS BASIC
GURPS ベーシック(1993年第5版)。

さて、一方アメリカでは80年代末、スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社が「GURPSホースクラン」「GURPS ウィッチワールド」などのシリーズを発売。これらは実際のSF小説やファンタジー小説の世界観に立脚した作品でした。こういう展開ができるのがGURPSの強みだったんですね。しかしそんな折、ライバル社のR・タルソリアン・ゲームズ社から、あるビッグタイトルがリリースされました。「サイバーパンク」シリーズ(1988〜)です。最近PS4でゲームになったアレの原作です。
サイバーパンク2.0.2.0
R・タルソリアン・ゲームズ/サイバーパンク 2.0.2.0と、PS4用ソフト「サイバーパンク2077」
ウィリアム・ギブスンのSF小説のような近未来の世界を舞台にするこの作品は、80年代のサイバーパンクブームを捉え、商業的な成功を収めます(*2)。そして、このサイバーパンクシリーズのヒットに影響を受けてか、スティーブ・ジャクソン・ゲームズもサイバーパンクを取り入れたTRPGを製作しました。その名も「GURPS サイバーパンク」
GURPS  CYBERPUNK
のちに発売されたGURPS CYBERPUNK(1990)
ところがこの作品の発売をめぐって、スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社は思わぬ事件に巻き込まれることになります。





GURPS サイバーパンク


1980年代。それはパーソナル・コンピューターの夜明けの時代でもありました。

まだ一部の好事家だけがコンピューターと戯れていた時代。コンピューターと清く正しいパートナーシップを結んだ人々がいる一方で、その箱を使って「興味の充足のためのちょっとしたイタズラ」をはたらくアウトローたちもいました。まあ、この分野が得意な人や異様に詳しい人しかそもそもコンピューターに触れてなかった時代ですから、そういう人の割合も必然的に今より全然多くて、社会的なルールもあってないようなもんでした。あらゆる世界に「不良」がいますが、コンピューターカルチャーにもやはり、「ハッカー」と呼ばれる不良、アウトローたちがいました。

1990年5月、そんなハッカーたちと合衆国政府がぶつかりました。俗に「ハッカー狩り」とも言われたハッカー一斉検挙作戦、通称「サンデヴィル作戦」です。これにより27件の捜査令状が発行され、3名が逮捕される事態となりました。そして、これに先駆けて、1990年3月1日に合衆国シークレットサービスの強制捜査を受けたのが、実はスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社でした。

スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社が1989年から1990年にかけて「GURPS サイバーパンク」の製作にあたっていたことは述べました。そしてそれを担当したのが、SJG社社員のロイド・ブランケンシップでした。

ロイド・ブランケンシップ
姪を抱っこするロイド。2006年。*

ブランケンシップには秘密がありました。実は彼は、ハッカー集団「LEGION OF DOOM」の元メンバーであり、ハンドルネーム「メンター」としてその筋に知られる人物でした。「GURPS サイバーパンク」は、そんな彼の豊かな「教養」をふんだんに取り入れ製作されていました。

スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社は、コンピューターの黎明期、インターネット以前の時代からBBS*の開設などに力を入れていたことで知られています。SJゲームズ社が82年〜84年頃、「イルミナティ」のヒットを受けてすぐにその商標の獲得に動いたことは先に触れましたが、SJゲームズ社はこの90年頃までに、すっかり「イルミナティ」を自社ブランド化していました。そしてSJゲームズ社は、自社が運営するBBSにもその名を冠していました。その名も「イルミナティBBS」と言いました。

このBBSはゲーム好きのハッカーたちにも普通に利用されていました。アメリカも日本と同様、コンピューターの愛好家とゲームの愛好家の親和性が高かったのでしょう。ちなみに先ほど触れた日本の「コンプティーク」誌も、ゲームとコンピューターを扱う雑誌でした。

コンプティーク 1986年
1986年のコンプティーク誌
アメリカ合衆国シークレット・サービスは、スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社が運営していたBBSに疑いの目を向けました。ここに、ベルサウス社のコンピューターから不正に入手された「E911文書」のコピーが存在するのでは、と疑われたのです。

1990年3月1日、スティーブ・ジャクソン・ゲームズは、コンピューター、ハードディスク、モニター、モデム、レーザープリンタ、BBSマシン、そこに含まれるすべてのデータと、これから発売される予定のゲームの原案の大部分を強制的に押収されてしまいます。

当時、スティーブ・ジャクソン・ゲームズ側には捜査令状の内容が伏せられており(*3)、ジャクソンはいったいなぜ社のコンピューターが押収されねばならないのか理解できていませんでした。後になって、ブランケンシップが疑われていたこと、そして、BBSマシンに「E911文書」が格納されているという疑いがもたれていたことが判明しましたが、捜査の結果、結局スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社はこの件に一切関わっていなかったことが明らかになります。

無関係だったにもかかわらず、この押収によって仕事が完全にストップしたスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社は、やむなく従業員の半数を解雇することに(*4)。この強制捜査と押収は後から考えれば、全くもって不当なものでした。

スティーブ・ジャクソンはコンピューターなどの返還を要求。そして何より、近々に出版予定だった「GURPS サイバーパンク」の返却を求めました。しかしそこで言われた言葉にジャクソンは耳を疑いました。捜査員は「GURPS サイバーパンク」を、つまりはただのRPGのルールブックを、「これはコンピューター犯罪のハンドブックだ」と主張したのです(*5)

……まあ、状況が状況なので喩えるのもアレですが、魔法使いを演じるゲームブックを取り上げられて、「貴様魔法使いだな!」って言われてるような感じでしょうか。

少なくとも、当時のTRPGファンにはそう映りました。

「こいつはSFだ」とジャクソンが食い下がると、複数の捜査員が「いや、これは現実だ」と突っぱねる。これは全くもって滑稽な話でした。ブルース・スターリングは、著書の中で、これについてこう記しています。

この誤解は何カ月もくりかえされ、大衆のあいだに広まっていった。これは事件の真相ではないが、数カ月がすぎていくうちにこの事実誤認はたびたびおおやけに報道され、不可解な“ハッカー一斉取締”に関する、大衆の知っている数少ない“事実”のひとつになってしまった。シークレットサービスは、サイバーパンクSFの本の出版を止めるために、コンピュータを押収したのだ。

ブルース・スターリング「ハッカーを追え!」(1993)
翌1991年5月、スティーブ・ジャクソンは合衆国シークレットサービスに対して訴訟を起こし勝訴するのですが、実はこの時の訴訟のサポートに入ったのが、この一連の事件と「サンデヴィル作戦」を受けて、「サイバー空間の権利」を訴えるために設立された、EFF(Electronic Frontier Foundation)こと「電子フロンティア財団」でした。

当時ニューヨークタイムズに掲載された、設立者ジョン・ペリー・バーロウの写真
そしてこのEFFの活動初期に資金を提供したのが、設立者でもあるロータスデベロップメントのミッチ・ケイパーと、アップル創業者のスティーブ・ウォズニアックでした。この団体は後のインターネットカルチャーに非常に大きな影響を与えることになりますが、実はスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社は、この団体の設立にも大きく影響していたのでした。

ちなみにこのEFF、のちにスティーブジャクソンゲームズ社から出る「イルミナティ」シリーズでカードにされてます。恩知らずか!

EFF in INWO

すったもんだあった後、めでたくも無事に「GURPS サイバーパンク」は出版されました。しかし、その表紙にはこんなマークが。
押収されましたマーク

「この本はシークレットサービスに押収されました!」

騒動を宣伝に利用する、スティーブ・ジャクソンの鮮やかな一撃でした。

TCG:トレーディングカードゲーム


さて90年代に入り、アメリカのアナログゲーム界では大きな地殻変動が発生します。「マジック:ザ・ギャザリング」の登場です。

「マジック:ザ・ギャザリング」は1993年、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社より発売されました。現在も世界中で新たなファンを獲得し続けているこのゲームですが、その「熱」を象徴するニュースとして、最近では初期のレアカードの価格がなんと「1億円」を超えたことでも話題になりました*

「ギャザリング」はアナログゲーム界に「トレーディング・カード・ゲーム」という新たな概念を持ち込みました。それは、ゲームプレイに最低限必要な一式を揃えた「スターターパック」に加えて、中身のランダムな15枚程度が入った「ブースターパック」を買い足すことで、自分だけの「最強のデッキ」を構築してゆくことができる、というシステムでした。

のちに日本でも「モンコレ」や「ポケモンカードゲーム」、そして「遊戯王」などのTCGブームがやってきますが、そっちは置いておきます。とにかくこの「TCG」は、ゲームの面からもビジネスモデルの面からも、まさしくひとつの発明でした。それまでのTRPGプレイヤーが続々とTCGに移行する中で、よもやこの機を逃すまいと各社が続々TCG業界に参入しました。そしてスティーブ・ジャクソン・ゲームズも1994年*、トレーディングカードゲーム界に参入。そのシリーズこそが「イルミナティ:ニュー・ワールド・オーダー(新世界秩序)」でした。
INWO
ILLUMINATI: THE NEW WORLD ORDER。パッケージがかっこいい。
これが現在「予言だ」などと言われている、例の一連のシリーズになるわけですね。というわけで、ようやくこの話。


予言の検証


さて、このカードの「予言」についてお話しする前に一点。この記事はこれらの「予言」に対して否定的な立場になりますが、それらを主張した一般の方のブログなどを糾弾したりするものではありません。それがより事態を膠着化させてしまうのは、この十年くらいを見れば明らかなので。だからこれを読んだ人も、あまりぶっ叩いたりしないで頂けると幸いです。もっとも、レイシズムに繋がってる場合はその時点でアウトですが。

「イルミナティ」ゲームが予言と言われていることについて、他ならぬスティーブ・ジャクソンによる発言が見つかりましたので、ジェシー・ウォーカー著「パラノイア合衆国:陰謀論で読み解く《アメリカ史》」より引用します。

「9・11以降、カードの題および図柄と現実世界に起きる出来事のあいだに類似性を認める人が主にオンライン上にいる。いや、彼らの世界に起きる出来事と言ったほうがいいかもしれない」とジャクソンは電子メールで私に語った。「典型的には、これらの人びとはタロットカードを解釈するかのように、一部のカードとその解釈をウェブページに投稿し、彼らは『どうやってこのことを知ったのだろう』といぶかるのです。あるいはユーチューブにビデオを投稿し、その中でカードの図柄にズームインして、不気味な音楽をかけます。」

ジェシー・ウォーカー「パラノイア合衆国:陰謀論で読み解く《アメリカ史》」(*7)(Amazon)
イルミナティカードの予言。これは、2001年9月11日のニューヨークテロ以降に主にネット上で発生した「陰謀ネタ」のうちの一つでした。

有名どころはこんなところでしょうか。


2001年9月11日の、ワールドとレードセンタービルへのテロを予言?


2001年9月11日の、ペンタゴンへのテロを予言?


2011年の東日本大震災を予言?しばしば「原発事故」のカードと合わせて語られる


ドナルド・トランプの出現を予言?


2020年のコロナウイルスを予言?コウモリが描かれ、武漢にある「武漢商貿職業学院」内の建物と一致?


このシリーズが発売されたのは、最初期のものが1994年。その後ブースターパックが何度か発売されましたが、それらはいずれにせよ、2001年よりも前でした。これをして、なぜ未来のことがこのカードに予言されているんだ、というわけですね。

僕もこれらのこじつけが「面白い」のは理解します。心霊番組と宇宙人で育ってきた人間なので。しかしながら、これに敢えて無粋な冷や水をぶっかけるとするならば、こんな指摘もできるでしょう。

「イルミナティ」のTCGは、シリーズ全てを合わせると、実に600種類以上に及びます*。そして、その全てがそもそも「陰謀」をモチーフにしており、つまり実際にあった陰謀論をモデルにしているか、実際に発生した事件をモデルにしているか、あるいは「実際に発生したら陰謀だと疑っちゃうよね〜」というような事件・シチュエーション・集団を、600種類作っているわけですね。なので、「そりゃ多分、何かは似るんじゃないか」と。ちなみに世界貿易センタービルは、このカード発売の前年、1993年にも爆破テロに遭っており、武漢と言われるイラストはむしろアメリカ議会議事堂によく似ています。

というかこの「武漢商貿職業学院」、世界中の有名建築を模倣していることで知られていて、米国議会どころか、構内に凱旋門もピラミッドもスフィンクスもあります*

じゃあもう何でもいいじゃないか!
まあ、何より、これまでのスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社の歩みを見てもわかる通り、スティーブ・ジャクソンはとにかく商魂たくましい人です。彼の姿はどう見ても、会社として生き残るべくその都度最善を尽くしてきた、中小企業の経営者の姿そのものでしょう。とても世界を牛耳る陰謀に加担してる(できてる)ようには見えません。

まあ、本当に世界を牛耳ってたらマッドマックスに乗っかりませんし、TCGのブームにも乗っかりませんし、安田均さんに「なんで日本ではGURPSがこんなに売れてるんだ?」って聞きませんよね。もっとちゃんと、必死で経営してたんだと思います。ちなみに今(2021年)はコロナ禍で対面式のアナログゲーム界隈が何かと大変なので、Kickstarterで「イルミナティ」のアプリ版を作ろうとしています*。がんばれスティーブ!

911の直後はアメリカ中が疑心暗鬼に覆われていた時期でした。社会学者ジョエル・ベストはそれをこう言い表しました。「とかく人はこう考える。『まず世界貿易センタービルで、次が国防総省なら、そのあとは自分の近所だ』」(*6)。そんなムードの渦中にあって、ネット上で時折見つけ出される、これらの「陰謀の証拠」。それは一部の人びとを、パラノイアに仕立ててしまいました。

……いや、もしかすると、あの1990年もそうだったのかもしれません。急激に到来したコンピューター社会と、それを脅かす「ハッカー」という未知の恐怖に対する人々の疑心暗鬼を背景に、シークレットサービスが「イルミナティ」というBBSを押収したあの時も。


911後の展開と、日本への波及


ジャクソンによれば「イルミナティカードの予言」が言われ始めたのは2001年9月11日以降ということになりますが、その中で、今現在辿ることのできるもっとも古いものは「cuttingedge.org」というウェブサイトの、2002年12月〜2003年1月頃に公開されたこのページ*です。

予言とか言い出したやつ
ここでは、デヴィッド・アイクという人物が選んだ9枚のカードに基づき、それにちなんだ陰謀論が述べられています。これを読むと興味深いことに気づきます。以下に一部を抜粋します。

1990年、ロールプレイングゲームのデザイナーだったスティーブ・ジャクソンは、のちに「イルミナティ:ニュー・ワールド・オーダー」、略して「INWO」と呼ばれることになるゲームの制作を計画していた。ジャクソンは、世界をアンチ・キリストの理想郷とされる「新世界秩序」へと導くイルミナティ計画に非常に近いゲームを作っていたのだ。

なぜスティーブ・ジャクソンはイルミナティの計画を正確に知っていたのだろうか?実は、彼があまりにもそれを正確に知っていたために、シークレット・サービスが彼のもとを突然訪れ、ゲームの販売を阻止しようとしたのだ。

1990年3月1日の朝、何の前触れもなく、武装したシークレット・サービスの捜査官が、オースティン警察と少なくとも1人の電話会社の民間人「専門家」を伴って、スティーブ・ジャクソン・ゲームズのオフィスを占拠し、コンピュータ機器の捜索を始めた。また、『GURPS サイバーパンク』の作者である●●●●●の自宅も捜索された。4台のコンピューター、2台のレーザープリンター、いくつかのハードディスク、その他多くのハードウェアを含む大量の機器が押収された。そのうちの1台は、イルミナティBBSを運営しているコンピュータだった。


「テロリストによる核攻撃」 — このカードは、このゲームが1995年に発売されたという事実と照らし合わせると、最も衝撃的なカードの一つだ。スティーブ・ジャクソンは世界貿易センターのツインタワーが攻撃されることを、一体どのように知ったのだろうか?このカードは世界貿易センタービルの攻撃を正確に描いている。1995年に制作されたカードに、9.11に関するいくつかの要素が正確に描かれているのだ。

カードの左端の建物には、中央に「すべてを見通す目」を持つイルミナティのピラミッドが描かれており、イルミナティの支配を正確に表している。

……なるほど、全くの予備知識を持たずにこれだけを読んだらうっかり信じてしまうかもしれません。絵もWTCビルに似てますし、別なところではご丁寧に、スティーブ・ジャクソンがホームページで公開している「強制捜査」を振り返るコメントを切り取って引用までしています。

しかし今までの流れを見ると、この主張が誤りであることが解ります。まず、TCGというジャンルの成立は93年の「マジック:ザ・ギャザリング」以降になりますから、90年にSJゲームズ社が「イルミナティ:ニュー・ワールド・オーダー」を制作していることはありえません。90年の強制捜査当時にSJゲームズ社が製作していたのは「GURPS サイバーパンク」。「シークレットサービスに押収されました!」のマークもありましたね。

そして最後のポイントが面白いですね。確かに左端のビルには例の「ピラミッドに目」のマークがあります。しかしこれはもちろんスティーブ・ジャクソン・ゲームズの専売特許であり、ロゴであり、というか、そもそも「それ」のカードゲームです。

余談ですが、この9枚のカードを選んだデヴィッド・アイクという人物、実は陰謀論の界隈では大変な有名人です。日本でも著作が翻訳されていまして、こんな本が出てました。
はい出ました、レプティリアンです。「実は世界は、人間に擬態した爬虫類人間『レプティリアン』に支配されている」というあの言説。ネット上で一度は見たことがあるのではないでしょうか。あれの大元が実はこの人でした。デヴィッド・アイクについてはまた機会を改めて取り上げたいと思います。

サイトの話に戻りましょう。つまりはこう結論づけることができます。この「cuttingedge.org」というサイトは、①あるカードゲームの中に911テロによく似たカードが含まれていたということと、②そのメーカーが以前に不当な捜査を受けていたということ、そして③その問題になったBBSの名が「イルミナティ」であったということを、時系列をごちゃごちゃにして繋ぎ合わせて「陰謀」をめぐるストーリーを作り上げたのだと。

そして2008年、この内容がある人物によって日本に「輸入」されました。陰謀論系ライターのベンジャミン・フルフォード氏です。

そして「cuttingedge.org」の誤った記述は、そのままベンジャミン・フルフォード氏のブログにも受け継がれていました。いわく、「1990年3月1日アメリカのゲーム会社がINWO (Illuminati: New World Order)というカードゲームを発売しようとした」「そうしたところシークレットサービスや警察がこのゲーム会社を家宅捜査」「ゲーム会社は裁判で勝訴し、1995年にINWOは無事発売」*。まさしく先ほどのサイトの内容に一致します。

それから6日後、フルフォード氏のブログが別のブログにコピーされ*、そして翌年12月、さらにそれに影響を受けた記事が作成されます*。そのブログが翌年7月、別のブログにコピーされます*。コピーはコピーを生み続け、その都度、それぞれの筆者による新たな「見解」が付加されていきました。

』 遡ってこの時代のブログを調べた結果、どうやらやはりフルフォード氏のブログが日本における「起点」のようでした。少なくとも、影響力の点では他のブログの群を抜いていました。もちろん、今では辿り着けなくなったブログもあるでしょうから、一概には言えませんが。

そして2011年3月11日。日本は未曾有の震災を経験しました。このあたりから、ネット上のジョークがジョークでは済まなくなってきてしまいました。かねてから都市伝説の世界で噂されてきた「人工地震」という言説が「イルミナティカード」と照らし合わせて語られはじめたのはここからでした* *。これは「イルミナティカード」をめぐる陰謀論が、遠く離れたアメリカのことではなく、「日本のこと」として語られはじめた瞬間でした。それはまるで、911後のアメリカの姿を日本がなぞるようでした。

そして2012年11月2日。かねてからフリーメイソンにまつわる噂などを取り上げてきた「やりすぎ都市伝説」が、このゲームを「イルミナティカード」として特集します*

ここから、さらに「予言」に言及するブログが激増しました。
エスパー伊東も衝撃を受けた
エスパー伊東も衝撃を受けた*

そしてそれ以降、新たな事件や災害が起こるたび、カードゲームをよく知らない人たちがそれに当てはまるカードの画像をネット上から探しだし、「謎解き」を始めるようになりました。そしてさらにここに加わったのがYouTuber人口の爆発的増加でした。今ではこのゲームが本来持っていた「陰謀論への皮肉」という文脈はすっかり消え失せて、これ自体が陰謀論そのものに変化してしまいました。これはある意味で、抗いがたい歴史の忘却だったのかもしれません。

「識者」からの批判


それらに対する批判もありました。中でも、数度にわたってブログで明確に批判の言葉を突きつけたのが、作家で「と学会」元会長の山本弘氏でした。と学会は複数の作家・ライターからなる、「トンデモ本の品評」を目的とする団体であり、スピリチュアル系やオカルト系の「トンデモ本」をイジりながら批判する「と学会」の一連の著作は、90年代から00年代にかけて一世を風靡しました。

この記事に山本弘氏の名前が登場するのは2度目です。山本弘氏は、先に触れた「グループSNE」結成当時からのメンバーであり、「GURPS」シリーズを日本で多数手がけた張本人でもありました。そういう意味では、この件に対して憤る理由と、なにより、ゲームに対する深い見識がありました。当然「イルミナティ:陰謀のゲーム」も20年以上前にプレイしていたわけですが、氏は数度にわたってカードをめぐる陰謀論を批判しました。その中で、あるブログを引用して、それに反論する形で書かれていた箇所があったのですが、これには思わず笑ってしまいました。

何これカードゲーム??

>カードゲームってポケモンカードとかみたいなやつ??

(中略)

>子どもがこんな、イルミナティカードで遊ぶの???

>遊ばないと思うんだけど^^;

>じゃあ大人?

>いい年したサラリーマンが、
>「ふっふっふっ。俺は”地震計画”でいくぞ!」
>「ムム?!じゃあこっちは”第三次世界大戦”だああっ!」
>「くそおお!やられた〜」

>なんてやるの?




そうだよ! (笑)

大人がカードゲームで遊んで悪いかよ!

山本弘の新SF秘密基地BLOG *
いい大人なのにすみません……。ただこれやってみるとアツいんですよ。それはともかく、「と学会」元会長であり、GURPSシリーズの著者でもあった山本氏は、だからこそ「ゲームを誤解してほしくない」ということを繰り返し強調していました。

しかしやはり、ありふれた「事実」よりも「新しい解釈」の方がよりセンセーショナルで、人々の耳目を集めるのでしょう。「カードの予言」を主張するコンテンツはその後も増え、今でも多くの人が、手に取ったことすらない「イルミナティカード」の画像をネットで探し、そこに新たな解釈を加えているのでした。ジャクソンの表現を借りるならば、まるでタロットカードを扱うかのように。

陰謀論で「遊ぶ」ことは可能なのか?


オカルト陰謀論にはまっていくと、人はやがて神話的広がりをもった岐路に直面する。仲間うちでは、これを〈チャペル・ペララス〉(=危険な礼拝堂)と呼んでいるが、向こう側に出るときには、全くの「パラノイア」か「不可知論者」になってしまう。別の道はない。私の場合は「不可知論者」になって出てきた。

ロバート・アントン・ウィルソン著 武邑 光裕訳
「コスミック・トリガー―イリュミナティ最後の秘密」(1994)
さて、信じたいものを信じるための材料が無限に見つかるこの時代に、「陰謀論で遊ぶ」ことは果たして可能なのでしょうか?

陰謀論的でゴシップ的な嘘八百の記事を「ネタと風刺で」書くことで知られた「ザ・リアリスト」誌のポール・クラスナーは、ある時、メイ・ブラッセルという人物から、「チャールズ・マンソンの殺人事件は軍諜報部がでっち上げたものだ」と伝えられました。クラスナーはそこから、どんどんメイ・ブラッセルの説く陰謀論に引き込まれていきます。そして自身もチャールズ・マンソンの調査にのめり込んでいきました。

チャールズ・マンソン
チャールズ・マンソン。1960年代にヒッピーコミューンを率いた。コミューンのメンバーを洗脳し殺人を指示したとされる。

そんなある時、クラスナーは不意に「誰かにあとを尾けられている」と感じるようになりました。監視の直感はそれからも続き、さらにはバスの中で「今自分の前の席に座っている人間はCIAだ」と感じるようになりました。彼は必死でボールペンをノックし、その「信号」で、自分が尾行に気づいていることを相手にわからせようとしました。奇妙にも、彼の書くアイロニーに、彼を取り巻く状況のほうが酷似してきました。

陰謀の真相を追っていたクラスナーは、この時知らず知らずのうちに、パラノイアに蝕まれていました(*7)

「ぼくはチャールズ・マンソン事件を調べたかった

(中略)

ところが、けっきょくぼくは自分自身がもつ不思議な闇の世界を向きあわねばなりませんでした。当初の目的はサイエントロジーの危険性を暴露することだったのに、陰謀カルトに手を染める結果になってしまったのです……ぼくは自分が書くものは重要だと考えていた。だからそれを証明するために迫害されたかった。その過程で、ぼくは陰謀にしてやられたんだ」。

2021年1月6日、「バイデンは不正な選挙で当選を果たした」という陰謀論を信じたトランプの支持者たちが、アメリカ合衆国議会を占拠しました。実に、革命のような事態でしたが、彼らの中に緊張感のない、弛緩した空気が流れていたのが印象に残っています。バッファローマンことジェイク・アンジェリは、トランプが真の大統領であることを確信しており、自分が「恩赦」されると信じていました* *。「フィクションが現実に染み出してきた」。僕はこのニュースを見た時、そんな印象を持ちました。

さて、日本ではどうでしょうか?

2016年2月15日、ある男性が衆議院議長公邸に一通の手紙を差し出しました*。そこには直筆の便箋3枚と2枚のイラスト、そして5枚の「イルミナティカード」のプリントアウトが入っていました。

手紙1

手紙2

手紙3
TBSニュースサイト「NEWS i」内の動画より引用*
以下にその手紙の一部を引用します。とても不快かつ差別的・暴力的な表現が含まれるため、一部を伏せ字としました。ご了承ください。

「私の目標は■■■■■の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です。
■■■■■に対する命のあり方は未だに答えが見つかっていない所だと考えました。■■■は不幸を作ることしかできません。
フリーメイソンからなるイルミナティが作られたイルミナティカードを勉強させて頂きました。戦争で未来ある人間が殺されるのはとても悲しく、多くの憎しみを生みますが、■■■を殺すことは不幸を撮大まで抑えることができます。
今こそ革命を行い、全人類の為に必要不可欠である幸い決断をする時だと考えます。日本国が大きな第一歩を踏み出すのです。」

(中略)

「作戦内容
職員の少ない夜勤に決行致します。
■■■■■が多く在籍している2つの園(津久井やまゆり、●●●●)を標的とします。
見守り職員は結菓バンドで身動き、外部との連絡をとれなくします。
職員は絶対に傷つけず、速やかに作戦を実行します。
2つの園260名を抹殺した後は自首します。」*

■部分筆者、●部分不明(園の実名)
同封されていた「カード」のコピーには、「13013」というカードが含まれていました。これは、ふたつの「13」を「B」、0を「O」と置き換えて「BOB」と読む、パロディ宗教「サブジーニアス教会」のキャラクター「ボブ・ドブス」の肖像でした。



男性はこの「13013」を逆読みし、「3」を「サ」、「10」を「ト」、残りの「1」と「3」を足して「シ」と読み解き、自分の名前を指し示すものと読み換えて、このカードが自らへのメッセージであると解釈しました。彼のTwitterアカウントには、こんなツイートが残されていました。

手紙1

手紙2

手紙3
WEBサイトアーカイブサービス「archive.is」より引用*

そしてこの手紙の主、植松聖は、同年7月26日、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」に乱入し、入所者19名を殺害します。

2020年3月31日、植松聖は、自分を特別な存在だと思い込むことのある「自己愛性パーソナリティー障害」の診断を受けながらも、事件時は責任能力があったとされ、死刑が確定しました*。2017年には、彼が獄中で「新日本秩序 NEW JAPAN ORDER」という漫画を描いていたことも明らかになっています*。ネットで身につけた「イルミナティカード」に関する何らかの陰謀論を、彼がその極めて差別的で身勝手な思想の中に内面化していたのは確かでしょう。

きっとこれまでに紹介したスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社の歩みや日本でのGURPSの受容などは、オールドファンにとっては常識レベルのことばかりだったでしょう。しかし、「常識」–––または、共通の認識という幻想–––は、繋ぎ止めておく作業を怠れば簡単に書き換えられてしまうのだと思います。特に、インターネットの中では。

信じるか信じないかは……


例の番組では、「信じるか信じないかはあなた次第です」という決め台詞でエピソードを締めるのが定番でした。

この記事もここらでおしまいですが、ここはひとつ、敢えてあの言葉の逆を行って、この記事を締めたいと思います。

陰謀論は、情報の取捨選択の力を奪います。「自分が信じる世界のあり方」と矛盾する事実の受け入れを阻害し、そのかわりに、なんて事のない数字や日常のニュースの中に、身勝手なメッセージを読み取らせます。

謎の組織が世界を支配しているという奇妙な言説と「戯れている」あいだはいいでしょう。しかしそのうちに、謎の組織が実在するという疑念が自分の中で膨らみはじめ、ある時、街中のあらゆる三角形に「組織」のメッセージを感じ取る。公園の遊具、街中のステッカー、マンホールの蓋……。その頃にはすでに、狂気的な疑心暗鬼に精神をどっぷりと蝕まれている。陰謀論とはそういうものなのではないでしょうか。ここでスティーブ・ジャクソンの言葉をもう一度振り返ってみます。

「9・11以降、カードの題および図柄と現実世界に起きる出来事のあいだに類似性を認める人が主にオンライン上にいる。いや、彼らの世界に起きる出来事と言ったほうがいいかもしれない」


「“彼らの”世界」。スティーブ・ジャクソンはきっと、陰謀論の本質を理解していたのでしょう。陰謀論とは、何らかの結社や団体についての荒唐無稽な「説」のことではなく、ある個人が抱く、「世界はこうに違いない」という強烈な強迫観念そのものであるということを。

ともすると、「信じるか信じないかはあなた次第」というあの言葉は、「都市伝説」なるパッケージングと合わせて、陰謀論というものの危険性を巧みに覆い隠してしまっていたのかもしれません。

あらゆる情報が「あなたが信じたい形」に変換され、世界がまるで一つの真実を指し示しているかのように「見えてしまう」。そのレベルに至った頃にはもう「信じるか信じないかはあなた次第」ではない。その物語を信じるように、あなたの思考回路の方が書き換えられてしまう。それを信じることしかできなくなってしまう

それがより、適切な表現であるように思います。

アメリカで議会占拠が起き、日本で植松が出てしまった今、「陰謀論」の恐ろしさの本質を見誤らせかねないあの言葉は、一旦見直されるべきところに来ているのかもしれません。

そして最後に。

ルール説明だと思ってここまで読んだ人、すいません。
出典・引用(書籍等のみ。WEB出典は文中):
スティーブ・ジャクソン・佐脇洋平・グループSNE「ガープス・ベーシック―汎用RPGルールブック」(1993) Amazon
安田均・水野良・グループSNE「RPGリプレイ ロードス島戦記〈1〉」(1989) Amazon
*1:
安田均「安田均のゲーム紀行 1950-2020」 (2020) / P33 Amazon
*2,*3,*4,*5:
ブルース・スターリング・今岡清「ハッカーを追え!」(1993) / P213,P217,P221 Amazon
*6,*7 *8:
ジェシー・ウォーカー・鍛原多惠子「パラノイア合衆国:陰謀論で読み解く《アメリカ史》」(2015) / P377,P325-P326 Amazon
*6,*7 *8:
ロバート・アントン・ウィルソン・武邑光裕「コスミック・トリガー―イリュミナティ最後の秘密」(1994) / P18 Amazon

また、ガープスや当時のTRPG・TCGについてお話を聞かせていただいたラムッキ@〜TRY AGAIN〜さんに、この場を借りて感謝を申し上げます。

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